整形外科
整形外科では骨、関節、筋肉、腱、靭帯、および(主に末梢)神経など、人間が体を動かすのに欠かすことのできない組織を扱います。これらの組織は、「運動器」あるいは「筋骨格系」と総称されることが多く(本欄では「運動器」を用います)、整形外科は運動器を扱う診療科目であると言えます。
運動器の疾患は数多くありますが、大別すると①先天的あるいは発育期に生じるもの、②加齢にともなう変性によって生じるもの、③ケガや使い過ぎによって生じるもの、④非感染性の炎症によって生じるもの、⑤細菌等の感染によるもの、⑥腫瘍性のもの、⑦原因の特定できないものに分けられます。なかでも、②による機能障害の進んだ状態は「ロコモティブシンドローム」と呼ばれ、日本整形外科学会ではその予防や治療のための啓発活動に努めています(参考:日本整形外科学会公認ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト)。
ここでは当院で診療する機会の多い、主として上記②に含まれる代表的な整形外科疾患として、骨粗しょう症、変形性膝関節症、頚椎症・頚椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア、肩関節周囲炎(五十肩)の5つの疾患についてご紹介します。もちろん、ここで紹介する以外の整形外科疾患も十分に診療可能ですので、何でも気軽にご相談ください。なお、上記④に含まれる関節リウマチをはじめとしたリウマチ性疾患や痛風のような炎症性疾患、さらに上記⑦に含まれる線維筋痛症については、「リウマチ科」のページでご紹介します。
骨粗しょう症
骨粗しょう症をすべて漢字で書くと「骨粗鬆症」ですが、「鬆」の字はもともと大根や牛蒡(ごぼう)などの芯にできる細かい隙間のことだそうです。つまり、骨粗しょう症は読んで字のごとく骨の目が粗く、中に隙間ができたような状態のことです。いわば骨がスカスカになってしまうわけですから、十分な強度を保てず骨折しやすくなります。
骨粗しょう症は閉経後の女性、とくに高齢女性に非常に多くみられますが、関節リウマチ等の治療のために長期間ステロイドを服用している方や、消化管の病気のために栄養の吸収が不十分な方にもしばしばみられます。骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折や脊椎圧迫骨折は入院や手術を要することも多く、本人はもちろん家族も大きな負担を強いられます。
当院では最新の骨密度測定器を用いて骨密度を正確に評価するとともに、血液検査による骨代謝マーカーの測定も実施し、患者様お一人お一人に最も適した治療と生活指導を行います。なお、当院で用いる骨粗鬆症治療薬は以下の通りです。
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内服薬:ビスフォスフォネート製剤・カルシウム製剤・活性型ビタミンD3製剤・ビタミンK2製剤・選択的エストロゲン受容体調節薬
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注射薬:ビスフォスフォネート製剤・デノスマブ・テリパラチド・ロモソズマブ
変形性膝関節症
加齢にともなう変性によって軟骨がすり減り、膝関節の痛みと変形をきたす疾患です。変形性関節症は全身どの関節にも生じますが、膝関節に生じることが最も多く、中高年の女性に非常に多くみられます。症状が進行すると長時間歩けない、階段の上り下りができないなど、移動能力が大きく低下します。また、しばしば関節の腫れや可動域の低下をともないます。
治療は内服薬や外用薬などの薬物療法に加えて、膝関節内へのヒアルロン酸の注射もしばしば行われます。また減量などの生活指導や、筋力訓練などの運動療法も非常に重要で、当院では運動器リハビリテーションを行って症状の緩和や進行の予防に努めています。なお症状が強く、他の治療法では効果が不十分な場合には人工関節置換術が行われますが、当院院長が関連病院に出向して実施することも可能です。
頚椎症・頚椎椎間板ヘルニア
頚椎が加齢にともなう変性によって変形する病態を頚椎症と呼びます。変形した部分で脊髄神経が圧迫されると、手足に力が入りにくくなったり、細かい作業がしにくくなったりします(頚椎症性脊髄症)。また、神経根が圧迫されると手や腕に痛みやしびれが生じます(頚椎症性神経根症)。同様の病態は、比較的若年でもみられる頚椎椎間板ヘルニアでも生じますし、比較的まれな疾患ですが頚椎後縦靭帯骨化症でも生じます。
治療は内服薬に加えて、コルセットによる固定や頚椎牽引などの物理療法が行われます。また、これら保存療法で効果が不十分な場合や、急速に手足の麻痺が進行するような場合には椎弓形成術などの手術が行われます。頚椎手術が必要な患者様につきましては、手術症例の多い信頼できる関連病院をご紹介します。
腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア
加齢にともなう変性によって腰椎が変形する病態として、変形性腰椎症、腰椎変性すべり症、腰椎変性側弯症などがありますが、いずれもしばしば脊柱管の狭窄をきたし、馬尾神経や神経根が圧迫された結果、足がしびれて痛い、足に力が入りにくい、長時間歩けないなどの症状を呈します。ときには排尿や排便の機能が障害されることもあります。また同様の病態は、比較的若年でもみられる腰椎椎間板ヘルニアでも生じますし、骨粗しょう症の項で触れた脊椎(腰椎)圧迫骨折でも生じることがあります。
治療は内服薬に加えて、コルセットによる固定、骨盤牽引などの物理療法、硬膜外ブロック注射などが行われます。また、これら保存療法で効果が不十分な場合や、急速に足の麻痺や排泄機能の障害が進行するような場合には開窓術や椎体間固定術などの手術が行われます。腰椎手術が必要な患者様につきましても、手術症例の多い信頼できる関連病院をご紹介します。
肩関節周囲炎(五十肩)
はっきりした原因は分かっていませんが、加齢にともなう腱板の変性を背景として発症すると考えられている、肩関節の痛みや可動域制限をきたす疾患です。五十肩という名前が示す通り、50歳前後の方に比較的多くみられますが、もっと若い年代や高齢者でも発症します。痛みや可動域制限によって、シャツを脱いだり着たりがしにくい、腰の後ろで帯が結べない、高いところの物が取れないなどの生活上の不自由をきたします。また夜寝ていて、痛みのために目が覚めてしまうということもあります。
治療は内服薬や外用薬などの薬物療法に加えて、しばしば肩峰下滑液包内へのヒアルロン酸やステロイドの注射が行われます。また関節可動域の回復のために、運動療法や肩関節周囲筋のリラクゼーションやモビライゼーションなどのリハビリテーションも有効です。当院では運動器リハビリテーションを行って、関節拘縮の予防や可動域の回復に努めています。
骨粗しょう症では背中が曲がったり、腰背痛をきたしたりします。身長が縮むのも特徴です。
当院では最新の骨密度測定器を用いて診断し、お一人お一人に最適な治療法をご提供します。
院長が行った人工膝関節の研究です。権威ある英文誌に学術論文として掲載されました。ご興味のある方はこちらをご覧ください。
頚椎症や頸椎椎間板ヘルニアで脊髄や神経根が圧迫されると腕や手がしびれたり、細かい作業がしにくくなったりします。
腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアでは、片側ないし両側の下肢後面(太ももの後ろ側やふくらはぎ)に痛みやしびれを生じることが多く、長時間歩くと痛みやしびれが強くなって歩けなくなる「間欠跛行」を呈します。症状は前屈位をとると軽快するので、自転車なら長時間乗っても問題ないという場合が多いです。
肩峰下滑液包に炎症や癒着が生じると強い痛みとともに関節の拘縮(動きが悪くなること)をきたします。肩峰下滑液包内にステロイド剤やヒアルロン酸を注入して炎症を緩和するとともに、積極的なリハビリテーションを行って可動域を回復させることが重要です。